Column

コラム:石田えり『風の色』vol.2

最悪結果が大正解

仕事を選ぶ基準はシンプルだ。私の場合、“人間とは何か”という永遠のテーマを、俳優として少しでも追求できると思い、ワクワクしたときだ。だが、めったに出会えない。以前、オートバイで世紀の大ジャンプに挑戦した男性のニュースを見た。さもうれしそうに片手を挙げて観客の声援に応えスタートを切ったが、着地手前で積んであった車に激突し、大爆発の中、あっけなく死んだ。その冗談のような人生を表現してみたいと思い、昨年あるテレビドラマで演じてみた。先日、完成したそのドラマをビデオで見た。私が意識して演じてみた肝心なところがすべて編集で消され、魂が抜かれている。だから私が役を演じているのではなくて、私そのものがブヨブヨの年取ったセンスの悪いタダのおばさんに見えた。だれが見ても、私は完全に終わっている。「テレビって最低!どうせヒマな人たちがボーっと見てるだけだからいいや」と、投げやりな気分になりかけた時、そうか!これがテレビなんだ!とわかった。テレビの見せ物的な一定のトーンからはみ出すものは排除される。でも、たとえ全部消されようと、ぶつけて演じた感覚は私の中に確かに残っていて、ある自信になっている。おばさん役だから、シェイプアップしなければどう見えるのかを試してみたのも私だった。最悪の結果が大正解、となったのだ。
これからは、もっと自由に、テレビで自分自身を表現していこう。と、こんな私を待っていたかのように、テレビの仕事がきた。

 

石田えり
2006年2月12日/赤旗日曜版より