Column

コラム:石田えり『風の色』vol.6

コミュニケーション

カナダに留学中、週末を利用して、バンクーバーの近くの小さな島に遊びに行った。船を降りると、スコーンと青い空の下を、てくてく歩いた。歩き疲れたころ、小さなカフェがあった。どこか遠い国からこの島に移り住んでいるという太陽のようなおばさんが作ったホウレンソウのパイとハーブティーは、私を元気にしてくれた。おばさんが、「今夜、島のホールで、ギターのライブがあるよ」と教えてくれた。何もすることがないので行ってみた。島の人たちが30人くらい集まっていた。ひとりの男性が私に話しかけてきた。ブッとんだ。当時、まだ英語が恐怖で、簡単な単語しか理解できなかった私が、その人の身内の結婚話が百パーセント、見事に理解できてしまったからだ。本物の知性とは、相手に伝えようとする意思と、どうしたら伝わるか考え、実行することなんだ。英語を超えていた。さて、ライブが始まった。ブッとんだ。ギタリストが弾き始めた途端、血が逆流するかと思った。涙が出そうなほど感動した。なんなのだ、この島は?なんにもない、のんびりした島だなあと思っていたら、この知性。この情熱。次の日、同じカフェに行って、報告したら、あのギタリストは、カナダでは有名な人だと教えてくれた。
この島は、ほとんど国に頼らず、問題が起きると集まって話し合い解決するそうだ。自立している人たちは、穏やかだが情熱的で、理想の生活を自分たちで作り上げていた。

 

石田えり
2005年8月21日/赤旗日曜版より