Column

コラム:石田えり『風の色』vol.3

男女をこえて

お酒を飲んで、家が遠くて大変そうな人がいると、気も大きくなっているので、「私の自宅に泊まっていきなさい」なーんて言ってしまう。男だとか女だとか関係ない。遊び疲れた子どものような感覚なのだ。先日、久しぶりに外出し、知り合いの男性と飛ばす勢いで飲んで、自宅前でタクシーを降りて歩き出したら、運転手の私に対する軽べつのまなざしを背中に強く感じた。ゲスのかんぐりは勝手にさせておけばいいのである。そしてこの男、ベットに横なるとすぐに、無防備な姿で、豪快にガーガー眠ってしまった。数時間たって、男の携帯電話が鳴り続いていたので起こすと、男は身支度をしながら興味津々で部屋を見回している。不意に来て、いったいどんな生活をしているのか、どんな人間かチェックされている気がして、私は「恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでよ」と言った。男は玄関で、少年のようなはにかんだ笑顔で、「ありがとう」とだけ言って帰って行った。顔に似合わず子どものようだ。雰囲気は嘘をつかない。自分と同じ感覚の人は、男女をこえて、人としても安心だ。こういう人は一生大切にしたいと思った。
生きていれば失敗もするし危険に出会ったりする。だからこそ無邪気な心に触れたとき、思わず手を合わせたくなるような感謝の気持ちがあふれたりもする。
心を静かにしてまわりを見ると、地球はこんなにも美しい。人生は、思いっきり楽しむものだ。そのために無邪気な心のまま、強く、やさしい人になりたいと思う。

 

石田えり
2005年12月25日/赤旗日曜版より